今日に限って朝の天気予報を見逃したのは、いつもと違ってやけに早朝に行われた朝練のせいだ。そう強く思ったのは、目の前に広がる今現在の天気が由来していた。
「……」
 俗に土砂降りなどと呼ばれるやつだろうと思いながら帰国子女の火神は降り頻る雨を眺めていた。余程の天変地異でも起こらない限り降り止みそうにないそれは、火神を嘲笑うように程度は増す一方だった。元々短気な火神にとって雨はクールダウンの意味を齎さない。
「……最悪……」
「入ります?」
「どあっ!?」
 いつも通りの出現に、火神は一瞬心臓がどこか遠い彼方へ飛んで行ってしまったように思えた。それほど、彼は突然だった。というよりも、火神が気付いていないというのも大きな一因ではあるが。
「……いい加減慣れてください、火神君」
「……慣れろったって……」
 不満そうにしている黒子の表情を見ると、自然と火神の眉間に皺が寄る。身長差が20cmを超えているため、火神の顔を見上げる黒子は少々辛そうに見える。だからなのか、近頃並んで立っているときに黒子が火神を見上げることが少なくなった。
「あ、黒子、傘」
「これでよければ」
「くれんのか?」
「あげません。貸しならしますが」
 いまいち話が噛み合わないと思ったのは双方共。
 黒子は安っぽい透明のビニール傘を勢いよく広げると、折り返し火神に渡した。それを隔てて見る世界はどこか異空間のようだと火神は思案した。若干歪んでいたり光っているところエトセトラ――まるで子供のようにそれをくるくると回していると、不思議そうな顔をして黒子が火神を見上げていた。
「何やってるんですか」
「……。と、ところで、これどうすんだよ」
「ボクが持ってたって火神君の頭上まで届きません」
「だから、持てと」
「端的に言えばそういうことです」






傘下
(なんか騙された気がする、と左の肩を濡らしながら火神は思った)











(090210)


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