「向こうではモテてたんですか」

 そう言って彼はすぐにシェイクに口をつけた。
 コイツにしては随分と唐突なことを聞くものだ。何かおかしな茸の類でも口にしたのではないかと疑ったが、気付けばコイツは普段から突拍子もないことばかり言う奴だった。彼の口から漏れる甘ったるいシェイクの匂いがハンバーガーの味を少し変えた。

「何だよ突然」
「いえ、特にこれといった用事はないのですが」

 休日にまでコイツと顔を突き合わす羽目になるとは、と頭を抱えたのも最初だけで、今となっては同じ時を共にするのも抵抗がなくなった。お互い同じファーストフード店を使用し、同じ席に同じ時間に座るのを運命だとでも思っていればそれで良い。
 黒子は突然いつも傍らにかけている鞄から小さな箱を取り出した。甘ったるい匂いはさらに加速度を増す。

「ハッピーバレンタインです、火神君」
「……こっちではバレンタインって女から男にやるんじゃなかったか?」
「でもアメリカでは、男女関係なく贈り物をする日でしょう」

 俺は純粋に日本人だし、アメリカに行っていたのも単にバスケットの留学のためであって、生まれも育ちも日本だ。それを踏まえてコイツはこんなことを言っているのだろうか。
 確かに向こうにいるときは女からと限らず贈り物をされたが――尤も、ここがアメリカなら「あぁそうか」と納得することも出来るが――生憎ここは日本だ。
 差し出された既製品をまじまじと見つめながら手を出すことが出来ずにいると、それを俺の目の前にぽんと置いてまたシェイクを啜り始めた。全くコイツは、ちっとも予想の出来ない奴だ。

 やけに女っぽい包装紙を一瞥してから、それを自分の鞄に詰め込んだ。そしてにこりと微笑んで「まあ、サンキュ」とだけ伝えた。
 そうでも言わないとこの場をやり過ごせないと思えたほど、彼の耳は真っ赤になっていたからだ。







too sweet,
(だって、お前のその顔があまりにも可笑しくて)









・おまけの黄黒・
「黒子っちー!わざわざうちの家までチョコ届けてくれたんスね!!本当に嬉しいっス!帰ってきたらドアノブに見知らぬ箱があるから何かと思ったら黒子っちからのチョコがかかってて、俺もうマジでビビったんスよ!せっかくハートの形になってたのに真っ二つになっちゃってたんスけど気になんないほどすげえ美味かったっス!俺にだけ手作りだなんてもう本当に感激したっス!」
「(あらかじめ割っておいたのに……)」
「ところでチョコがジャリジャリしてたんスけど、あれかなり新食感!黒子っちってもしかしてシェフになれるんじゃないスか!?」
「(砂混ぜておいたのに……)」



side 黒子






(090213)


inserted by FC2 system