「……マキちゃん、」 マキオの問いかけに、マキは応ずる気配を見せない。 今彼の肩に寄り掛かっているマキは微かに吐息を零して上下していることを除いては微動だにしていなかった。 マキオは軽く溜息を吐いた。 突然バスががたん、と些か大きく揺れた。 だがそのような事で安眠を妨げられるマキではなかったようで、一瞬身動いでからまた直ぐに眠りの世界へ戻っていく。 彼女はなかなかに手強い。 しかし少しの事では起きないということは、もう既に良く知っている。 ついこの間も、体を揺さぶってまでみたが、なにか唸っただけでまた直ぐに寝るのだ。 「……んぅ」 僅かに声が聞こえた。 右肩の軽く下を見遣ると、マキオの顔をぽかんとした表情で見つめているマキがいた。 状況が把握できていないらしい。 自分から寝るって言ったくせに、と心中こっそり呟いたのはマキオしか知らない。 「マキちゃん、起きた?」 「んー……まだねてる……」 「いや、もう起きてるでしょ」 寝ぼけ眼を擦りながら、マキは大きく伸びをした。 ある程度まで伸びてからふうと息を漏らして手を下ろすと、辺りを見回した。 そこでようやくここがバスの中だと分かったような表情をしている。 「ねえマキ、眠い」 「自分もマキじゃ……あぁほら、もう次だよ降りるの」 んー、とまだ少し眠り足りなさそうな声を漏らした。暫くしてバスは停留所へ停まった。 彼女はよくマキオの事を「マキ」と呼ぶ。 渾名に近いのだろうが、自分のことを名前で呼ぶ人間だと勘違いされることも多いのだと、本人は言っていた。 嫌なら「お前」とか「あんた」とか「君」とか――呼び名はもっといっぱいあるだろうに、彼女はマキオを「マキ」と呼ぶ。 マキオにはそれがよく分からない。 「大丈夫?」 「……何が?」 先程までまともに会話も出来ていなかったような人間かと思わせるほど、すっきりとした表情をしている。 マキオが心配してかけた声も彼女にとっては意味の分からない質問に過ぎないらしかった。 眠くない?とつけたそうとして遮られたその言葉を奥にしまいこみ小さく「あぁうん、何もない」と呟いて歩きだした。 マキはそれに着いて行く。 沈黙が暫く続いたさなか、マキオはふと、バスの中でのやり取りを思い出した。 彼はマキとの付き合いはなかなかに長い筈だが、それ故気にも留めなかったのである。 「あのさ……何で偶に俺のことマキって呼ぶの?」 「え?」 「自分のこと名前で呼んでる奴って思われるの、そんな良い気しなくない?別に俺のことならどう呼んでもいいから」 「まあ良い気はしないけど……別に理由なんてないよ。なんとなく。それよりマック寄ろうよー」 「え?さっきおやつ食べてたの見たんだけど」 「別腹別腹!」 理由はない、と一蹴されてなんとはなしに気落ちしたマキオをよそに、マキは誰にも知られないようひっそりと笑った。 面と向かって言うつもりなんてしていない。 けれど少なからず理由はあった。 「愛おしい君との重なった、私達の名前。君と同じ名前の部分だもの!」。 こんなことを言ったら彼はくだらないと笑うだろうか。 「何してんの、マキちゃん」 「何もしてないよ!早く行こう、マキ!」 弾けんばかりの笑顔を咲かせたマキに手を取られ、マキオも足を速めた。
重なる幸せ
(100404)(呼ぶ度に繋がりが強まる気がして) 個人的なイメージ、マキちゃんはとても自由奔放!でした。 というのは多分1000万記念イラリク企画の「マキちゃんもー帰ろう」という マキオの言葉に、気にも留めないマキちゃんの絵があったからでしょう。 マキオが散々振り回されている感じ!笑 しかし捏造甚だしい。 多分これ付き合ってる…のかな…なんかよく分かりません。笑 |